AIに、どこまで任せるか

ai Jul 27, 2026
明るい作業机で、資料の束を人の手が最後に確認している場面

「使えた」を「次にも使える」へ——合同AIセミナーで短期デモを二度動かして見えたこと

正式な質疑応答が始まって、最初の数分、画面は静かでした。

講義の途中では反応が見えていても、「何か質問はありますか」と聞かれると、すぐには言葉が出てこない。オンラインの場では、よくあることです。

その静けさを動かしたのは、参加者から出た一つの問いでした。

ロータリーの現況報告書を、これからどのように作れるだろう。

そこから、音声の文字起こしや要約、団体の事務作業、社内情報の扱いへと話が広がっていきました。

AIの機能について聞いている間、問いはまだ抽象的です。

それが「自分たちが実際に作っている文書」に置き換わったとき、初めて本当の問いが出てきたのだと思います。

2026年7月25日、狭山中央ロータリークラブと鹿沼東ロータリークラブの皆さまに向けて、伊田淳さんと合同AIセミナーを開催しました。

伊田さんからは、この一年でAIがどのように変わったのか。私からは「AI活用の本質と3段階」について、実演を交えながらお話ししました。

AIを使えることと、業務で成果を出せることは違う

今回、私が中心に置いたのは、次の一文です。

AIを使えることと、AIで業務成果を出せることは違います。

チャット欄に短い指示を入れれば、文章も、表も、企画案も返ってきます。

見出しがあり、言葉も自然で、形だけを見れば完成品のように見えることもあります。

実際の仕事で使うには、その成果物を誰が使うのか、何のために使うのか、どの品質を満たせばよいのかを、もう一段整える必要があります。

名前や日付は合っているか。
前提は自社の状況に合っているか。
その人の言葉として出せるか。
次に同じ仕事が来ても、同じように作れるか。

AIは、下書きや整理を以前よりずっと速く進められるようになりました。

人が目的と判断基準を整えて渡すことで、任せられる範囲はさらに広がります。

差を生むのは、AIの性能だけではなく、何を、どのような仕事として渡したかです。

AI活用を、三つの段階で見る

講義では、AI活用を三つの段階に分けました。

1.チャット活用

AIと会話しながら、文章作成や整理、案出しを手伝ってもらう段階です。

2.業務活用

自社の資料、メール、過去の記録など、仕事固有の材料と文脈を渡す段階です。

3.仕組み化

人が毎回チャットを開いて一工程ずつ指示するのではなく、複数の工程を一つの流れとして動かす段階です。

この三段階は、仕事に応じて使い分けます。

一度だけ考えを整理したいなら、チャットが向いています。毎月、毎週、同じ仕事を繰り返すなら、業務活用や仕組み化を考える意味が出てきます。

大切なのは、新しい使い方へ進むことよりも、その仕事に合った深さで使うことです。

三つの段階は、上へ進むための順位ではなく、仕事に合う深さを選ぶための見取り図です。

図1|AI活用の三段階は、仕事に応じて使い分ける

AI活用をチャット活用、業務活用、仕組み化の三段階に分け、仕事に合った深さで使い分けることを示した図
注:三段階を優劣や到達順位ではなく、仕事に合う深さを選ぶための見取り図として整理した概念図。
出典:本記事の本文と当日の実行記録をもとに鳴海貴慶作成。

一度きりの整理にはチャット、固有の材料が必要な仕事には業務活用、繰り返す工程には仕組み化。仕事が変われば、選ぶ段階も変わります。

実演の中心は、PowerPointの前にある仕事だった

当日は、講義を始める前にAIへ一つの仕事を渡しました。

扱ったのは、私のメールボックスに保存していた、Kajabiに関する10件のメールです。

対象となるメールを集め、本文と主要なリンク先を読む。内容を整理し、参照した根拠を追える形で残す。そこから情報を横断して分析し、経営者が判断するための構成へ変え、最後に10枚のPowerPointへまとめる。

この一連の工程を、あらかじめ整えた専用ワークフローとして実行しました。

何を読むか。
どの順序で進めるか。
何を中間成果物として残すか。
最後に何を作るか。

それらを先に決めたうえで、AIに渡しています。

完成したスライドは、最後に出てくる成果物です。

実演で見ていただきたかったのは、その前にある、探す、読む、整理する、分析する、構成するという一連の仕事でした。

これまで人が一つずつ進めていた工程を、一つの流れとしてAIへ渡せるところまで来ている。その現在地を見ていただくための実演です。

29分54秒と26分37秒

同じ条件で、ワークフローを二度実行しました。

事前に実行したときは、29分54秒。

当日は、私が講義の終盤で確認した時点では、まだ処理中に見えました。そのため、その場では事前に完成させた資料を使って、成果物と中間の記録をご説明しました。

その後に確認すると、当日の実行も26分37秒で完了していました。

二つの資料は、一字一句同じではありません。

見出しの置き方や、具体的な数値条件、説明の順序には違いがあります。

一方で、どちらも10枚で、新機能を先に導入するのではなく、需要を確かめ、提供できる状態を作り、その後に機能で拡張するという判断の骨格に収束していました。

事前版では、需要、提供、経済性、拡張を段階的に確認し、経営会議で見る指標や停止条件まで置かれています。当日版も、需要、提供、拡張を分け、投資を段階的に解放し、最後に経営判断を求める構成になりました。

処理時間には3分17秒の差がありました。

揃えていたのは、実行時間や一字一句の表現ではなく、扱う範囲、通る工程、求める成果物、最後にたどり着く判断の形です。

今回確認できたのは、同じ仕事を二度通し、二度とも経営判断に使える初稿まで到達したことでした。

二度の実行で揃ったものと、揃わなかったものを、一つの図にまとめます。

図2|二度の実行で再現したもの

同じ10件のメールから調査、分析、構成を経て10枚のPowerPointへ至る二度の実行を比べ、時間や表現は異なっても経営判断の骨格が再現したことを示す図
注:二度の実行で異なった点と、共通して経営判断の初稿へ到達した工程を整理した比較図。
出典:本記事の本文と当日の実行記録をもとに鳴海貴慶作成。

再現したのは、同じ文言ではなく、同じ範囲と工程を通って、経営判断の初稿へ到達する流れでした。

そして、二つの結果を見比べながら私が次に考えたのは、成果物の表現が同じかどうかよりも、この仕事にどこまで開発の手をかける価値があるのかということでした。

短期デモでも、検収と調整から始められる初稿になった

今回の仕組みは、セミナーで現在地を見ていただくために、短期間で構築したデモです。

それでも、出てきたのは、ゼロから作り直すためのたたき台ではありませんでした。

テーマを読み取り、材料を集め、論点を整理し、経営者向けの順番へ組み替え、10枚の資料にするところまで、AI側で完了しています。

人は、ゼロからメールを探し、すべてを読み、構成を考え、スライドを作るところから始める必要がありません。

構成と論旨を生かしたまま、具体的な数値条件を統一し、原資料と照らし、自社の判断に合わせて仕上げるところから始められます。

今回の短期デモが目指したのは、調査から経営判断資料の初稿までを一つの流れで作り、人が判断と仕上げに集中できる場所まで持ってくることでした。

その目的には、二度とも到達していました。

再現性は、開発によって育てられる

今回の短期デモで揃えられたのは、主に工程と判断の骨格です。

ここからさらに開発期間をかければ、参照する基準文書、数値条件、用語、出力形式、検査項目、修正の流れを整えられます。

二つの資料で数値条件に差が出たなら、次はその数値をどこから取得し、何を正とするかを固定する。

構成の違いを減らしたければ、必須の見出しと順序を定める。

文章の調子を揃えたければ、言葉の基準と見本を渡す。

人が毎回直している箇所が見えたら、その修正を次の仕組みに戻す。

この積み重ねによって、内容と表現の一貫性を、必要な水準まで高めていけます。

再現性は、一度に完成させるものではなく、工程、品質、内容、表現の順に育てていくものです。

六割か九割かは、資料の点数ではない

ここでいう六割や九割は、今回できた資料の採点ではありません。

AIが仕事をどこまで進め、人がどの段階から引き継ぐのかを考えるための目安です。

AIにどこまで作ってもらい、そこから人がどれだけ手をかけるのか。

その配分によって、仕組みの作り方は変わります。

月に一度だけ作る資料で、毎回内容も大きく変わるなら、AIに調査、整理、構成、初稿作成まで任せ、人が考えながら仕上げる形が合うかもしれません。

毎週、毎日、同じ形式で繰り返す仕事なら、基準文書や出力形式、検査、修正の流れまで作り込み、人は確認と承認に集中する形を目指せます。

割合は、最初にダイヤルで選ぶ数字ではありません。

その仕事が何回発生するか。間違えたときの影響はどれくらいか。人が直す時間と、仕組みを作る時間のどちらが小さいか。

そうした条件と、開発にかけた工数の結果として、AIに任せられる範囲が決まります。

月に一度だけ発生する仕事なら、検収できる初稿までで十分なことがあります。

毎日大量に発生する仕事なら、人が確認と承認に集中できるところまで仕組みを育てる価値があります。

そして、AIへ多くを任せられたとしても、最後に残る仕事があります。

その一割は、量は少なくても、仕事としては最も重い部分です。

署名すること。
判断すること。
外へ出すこと。
その結果について説明すること。

ここは、人の側に残ります。

最後に責任を持つのは、人の名前

当日の冒頭では、挨拶文をAIで整えた経験も共有されました。

便利さを感じる一方で、このまま自分の言葉として出してよいのか、という迷いもあったそうです。

AIで文章を整えること自体は、すでに身近な使い方です。

その文章が、その人らしいか。
その場に出してよいか。
自分の名前を載せられるか。

ここは、人が持つ判断です。

報告書も、会報も、会社の資料も、誰かの名前や、組織の名前で外に出ます。

だから、AIに何をさせるかを考えるとき、私は最初に、

この成果物は、誰の名前で外に出るのか。

を確かめます。

名前が見えると、目指す完成度と、人が確認する場所も考えやすくなります。

機能が、自分の仕事へ置き換わったとき

質疑応答では、報告書や会報をこれからどのように作るかという話から、音声の文字起こしや要約、社内での利用、機密情報の扱いへと話が移りました。

音声データをAIに処理させたところ、うまく整理された回もあれば、実際とは異なる内容が混じった回もあった、という経験も共有されました。

また、聞いたことには満足できる答えが返ってくる一方で、次に何を質問すればよいのか分からない、という声もありました。

誰がどの経験を話したかではなく、そこから現れた問いに意味があったのだと思います。

自分の仕事の中から、何をAIへ渡すのか。
どこまでをAIに持たせるのか。
何を人が判断するのか。

機能が実際の業務へ置き換わると、問いは具体的になります。

正式な終了後も対話は続き、全体では一時間半ほどになりました。

講義を聞いて「便利そうだ」と感じることと、自分の仕事を持ち込んで「この場合はどうなるのか」と考えることの間には、距離があります。

その距離を、実演と対話によって一緒に進めることに、セミナーとして同じ時間を共有する価値があったのだと思います。

公開する記録と、参加者に残すもの

当日使った具体的な指示、専用ワークフローの構造、中間成果物、二つの資料の詳しい比較、質疑応答の具体的なやり取りは、参加者向けに共有する資料と録画に残します。

本記事には、開催後も広く共有できる判断の骨格と、二度の実行を通して私が確かめたことを記録しました。

記事を読むことと、その場で実演を見て、自分の仕事へ置き換え、問いを交わすことは、同じ体験にはなりません。

当日ご参加くださった皆さまには、講義内容に加えて、ご自身の業務へ置き換えて考えた時間も含めて、持ち帰っていただければと思います。

「一度、使えた」を「次にも使える」へ

AIを使い始めることは、以前より簡単になりました。

その次にあるのは、一度できた結果を、次の仕事でも使える形に育てることです。

まずは、自分の業務の中から、AIに渡してみたい作業を一つ選ぶ。

そして、その成果物を誰が、何のために使うのかを、言葉にしてみる。

そこが、仕事をAIへ渡す設計の入口です。

その先にある材料、品質、確認、仕組みは、実際の業務と求める完成度に合わせて整えていきます。

今回の記録が、ご自身の仕事を見直すきっかけになれば、うれしく思います。

この機会をつないでくださった伊田さん、狭山中央ロータリークラブ・鹿沼東ロータリークラブの皆さま、そしてご参加くださった皆さま、ありがとうございました。

AIと人の協働について、構造から考えた記録を、ほかにも書いています。

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