AIへの指示に「工夫」を足す前に
Oct 08, 2026
AIへの指示には、資料の使い道を指定したり、追加の自己点検を求めたりする工夫があります。その効き目を、自分の講義や資料づくりの素材で確かめてみました。
今回の少数の比較では、工夫を足した側の明確な優位は確認できませんでした。目的・資料・完成条件を渡した通常の依頼でも、判断と完成物まで届きました。一方、できあがったものを具体的に見ると、短くまとめた文から条件が抜けるなど、使う前に直すべき箇所も見つかりました。
この記事では、その結果から私が見直した仕事の渡し方と、次の一件で試せる手順を紹介します。
この記事で答える問い
AIに仕事を頼むとき、指示に工夫を足すことと、渡す仕事の中身を整えることの、どちらを先にやるべきか。
私の提案は、中身を整えるのが先です。
何のための成果物か、何をしてはいけないか、情報が足りないときはどうするか、何ができたら合格か。まず、この四つを伝える。そのうえで、必要な工夫を足して確かめます。
今回の研究で、この順番のほうが良いことを直接証明したわけではありません。通常の依頼でも完成物まで届いたことと、実物に残った不足を踏まえた、私の実務上の判断です。
きっかけは、10月のはじめに目にしたニュースでした
私は、日々のAIニュースから、自分の仕事で確かめる価値があるものを選んで研究しています。今回の入口は四つでした。
一つ目は、ScholarCatalystです。184人の論文著者が、自分の研究を前に進めた、または進め得た文献を理由付きで評価し、研究の問いから必要な文献を探す能力を測る研究です。私はここから、蓄えた知識を「何に使えるか」で選ぶことに関心を持ちました。
二つ目は、OverActです。依頼に必要な範囲を超えて情報へアクセスするAIの振る舞いを扱っています。自己点検によって過剰なアクセスを抑えられる一方、必要な操作を残せるかも問題になります。この二つはいずれも、2026年10月に公開された査読前の論文(プレプリント)です。
三つ目は、開発者によるdotsの体験記です。不具合への対応を、修正案の作成だけでなく反映後の知らせまで任せているという話でした。これは比較試験ではなく、利用者の経験です。私が確かめたかったのは、講義準備でも仕事全体を任せ、使う人への引き継ぎまで届くかでした。
四つ目は、Perplexityの更新です。会話の中で操作できる図表や立体の説明を作れるという発表から、文章と、触って確かめられる教材の使い分けを考えました。
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取り上げたのは、日々の判断につながるからです
四つの入口を、私の仕事の問いへ置き換えました。
- 講義や資料づくりで、知識の用途を指定すると、選ぶ資料や制作判断は良くなるか。
- AIに追加の自己点検を求めると、必要な確認を残したまま、余計な行動を減らせるか。
- 調査から制作、検収、引き継ぎまで任せると、何が完成し、どこに人の仕事が残るか。
- 文章と操作できる教材に同じ内容を入れたとき、どの条件の違いを考えさせられるか。
論文の結果や利用者の体験が、そのまま私の仕事にも当てはまるとは限りません。そこで、自分の実務資料や公開記事を使って確かめました。
比較したことと、まだ比較していないこと
知識の用途指定と自己点検については、同じ資料・同じ課題で、追加する指示を変えました。比べる相手にも、目的と資料、完成条件をきちんと渡しています。わざと雑な依頼と比べて、工夫の効果を大きく見せないためです。
仕事全体の委任では、二つの条件とも調査から引き継ぎまでを任せました。そのため、「一工程ずつ指示するより良いか」は測っていません。何を完成でき、何が未確認として残るかを見ています。
教材については、文章版と操作版を作り、扱う内容を照合しました。人に学んでもらう比較は、まだ行っていません。
研究の作業そのものもAIエージェントに任せました。私が問いと判断基準を示し、エージェントが調査、試作、比較、報告を進める。私は報告を読み、自分の仕事への使い方を判断しています。
結果1 用途指定や自己点検を足した側の明確な優位は確認できませんでした
知識の活用では、通常の依頼と、資料を次の三つの用途で選ばせる依頼を比較しました。
- 方法を借りる
- 判断を変える
- 次の検証を決める
ここでいう用途の指定は、「あなたは経験豊富な編集者です」といった人物役の指定とは別です。今回、人物役を与える効果は調べていません。
同じ資料集合を使った三つの課題では、両方の制作判断はおおむね一致しました。用途を指定した側だけが、有効な追加知識を見つけたという差は観察できませんでした。
自己点検の比較でも、通常の明確な依頼と、追加行動の必要性を点検させる依頼の両方で、講義の初稿と引き継ぎまで完成しました。
通常の依頼の側は、元の資料を一つ多く読んでいました。ただし、その資料は完成物の根拠に使われていました。読む資料が少ない側を、単純に「無駄を減らせた」と評価することはできません。
今回の結果から、用途指定や自己点検が無意味だとは言えません。ただ、一律に追加すれば良くなるという根拠も得られませんでした。私はまず通常の依頼で何ができるかを見て、不足に合う工夫を足すことにします。
結果2 背景説明を渡す時点は仕事の目的で分けます
実務資料を組み合わせる中で、説明を渡す順番について整理できたことがあります。ホームページの初見確認と、その後の修正案づくりです。
初めて見る人の受け取り方を確かめたい段階では、先に「この会社は何をしているか」を説明しません。説明してしまうと、知りたかった説明前の反応を取れなくなるからです。
一方、修正案を作る段階では、観察の記録と確認済みの事業情報を渡します。何を正しく伝えるべきかが分からなければ、修正の方向も決められません。
そこで、説明前の反応を残してから、制作者の意図を別欄へ加え、AIに修正案を作らせる進行案にしました。
これは、既存資料をつないで作った設計上の整理です。今回、新しい参加者を集めて初見反応への影響を測ったわけではありません。それでも、「背景は多いほどよい」と一括りにせず、観察と制作の段階で分ける具体案を残せました。
結果3 短い完成文では定義や条件が落ちていました
知識活用の比較で作った200字ほどの短文に、二つの不足がありました。
- 「五つの質問」とだけ書かれ、その五つの中身が短文に含まれていない。
- 「固定できる部分をコードで処理する」という条件が、「事前ルールを決めてコードで処理する」という表現になり、弱まっている。
詳細な説明を読めば補える内容でも、短文だけを取り出して使うと伝わりません。別のAIによる点検も通し、利用する版では補いました。
短くすること自体が悪いのではありません。単独で使う文には、判断に必要な定義や適用条件を残す。出典を付け、元資料も保持する。今回の完成物から、そこを確認する必要が見えました。
結果4 調査から講義の初稿と引き継ぎまでは届きました
ここまでは、指示に工夫を足すかどうかの話でした。ここからは、仕事を任せた結果、どこまで届いたかです。
公開記事三本を材料に、20分講義の進行、受講者ワーク、解答、当てはまらない例、出典、講師へ戻す判断を作れました。
例題の一つは、「増えたこと」と「良くなったこと」の違いです。数値は架空です。
| 指標 | 前 | 後 | 変化 |
|---|---|---|---|
| 広告費 | 100,000円 | 120,000円 | 20%増 |
| 問い合わせ | 20件 | 24件 | 20%増 |
| 問い合わせ1件当たりの費用 | 5,000円 | 5,000円 | 変化なし |
問い合わせは増えていますが、この指標で見た効率は変わっていません。正確な計算はコード、数字の意味や次に確かめることの整理はAI、予算を増やすかの判断は人、という分担を扱いました。
期間やデータの定義がそろわない、当てはまらない例も入っています。その場合は比較を保留し、誰にどの条件のデータを確認すれば進められるかを残しました。
完成後に講師用と受講者用へ分けた際には、古い節番号への参照が残り、訂正しています。内容を作れた後も、渡す形で読み直す必要がありました。
講師は白紙から材料を集める代わりに、この構成と例題を採用するか、対象者に合わせて何を直すかを検討できる初稿を受け取れます。ただし、実際に人の準備時間や修正負担がどれだけ減るかは測っていません。今回の採用判断は、講師が検収する前の初稿づくりまでです。
結果5 操作教材には答えが変わる条件と、当てはまらない例を残しました
文章版と操作版には、同じ内容の説明、問い、選択肢、解説を入れました。操作版だけに詳しい説明を与えて、有利に見せないためです。
例えば、ホームページを初めて見る人と、すでにサービスを知っていて予約場所を探す人では、先に必要な情報が違います。「説明を先に置く」を、どちらにも同じように適用できるとは限りません。
AI・コード・人の分担でも、分類ルールが決まっている場合と、まだ合意されていない場合を分けました。ルールが未確定なら、コードへ任せる前に、AIが出した候補を人が判断する工程が必要です。
このように、条件を変えたら判断を変える必要がある場面を教材に残しました。文章でも同じ問いを考えられるようにしています。
現時点では、文章教材と条件比較の設計を利用候補として残し、操作版は実ブラウザでの確認前の候補としています。操作できるほうが理解を深めるかは、まだ分かりません。
まだ分からないこと
今回の比較は小規模です。知識活用は三つの課題について各条件一回、自己点検は一つの仕事について各条件一回の実行です。AIによる内容確認と計算・構造の検査を行いましたが、人による利用評価ではありません。
次の点も未確認です。
- 仕事全体を任せることが、一工程ずつ指示する場合より有利か。
- 指示、確認、手直しを含めた人の総負担が減るか。
- 教材で学ぶ人の理解や、別の問題への応用が良くなるか。
- 本番の講義や顧客の仕事でも同じ結果になるか。
今回残せたのは、この条件で完成したものと、そこに見つかった不足、採用できる範囲です。実際の利用価値を判断するには、対象と目的を決めて、人が使った結果を確かめる必要があります。
まず一度試すなら 次の依頼を四つに分けて書いてみてください
ここからは、今回の結果を踏まえた私の実践提案です。
1. 成果物の仕事
誰が、何を決めるために使うのかを書きます。
例:来週の会議で、広告費を続けるか判断するための一枚。
2. 守る境界
勝手にしてはいけないことを書きます。
例:外部へ送信・公開しない。元データを変更しない。
3. 例外時の扱い
情報がそろわないときの進め方を書きます。
例:期間や定義がそろわなければ想像で補わず、比較を保留して確認先を書く。
4. 合格条件
完成したものを、どう確かめるかを書きます。
例:判断材料、計算根拠、未確認事項、次の行動が分かり、元資料へ戻れる。
できあがったら、事情を知らない人や別のAIに、次の行動・根拠・未確認事項を説明してもらいます。その説明を元資料と照合し、誤解や抜けがあれば、依頼と成果物の両方を見直してください。
別のAIによる確認は予備点検です。人が実際に使えるかの確認とは分けます。
次の一件では、こうして不足を具体的に見つけてから、用途指定や自己点検などの工夫を足す。その順番を、私は勧めます。
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