打ち合わせのたびに条件が変わる案件、資料の修正はAIにどこまで任せられるか
Oct 14, 2026
顧客との打ち合わせのたびに、人数や予算、使える部品、承認の有無が変わり、そのたびに見積や計画を直す。その直しをAIに三日続けて任せたらどこまで仕上がるかを、架空の6件の案件で試しました。決まったことだけを反映し、決まっていないことは決まっていないと残した下書きが、6件中5件で仕上がりました。この記事では、そのときの渡し方と、人が手元に残したほうがよいものをお渡しします。
直しを任せたいのに、渡し直しと見直しで手間が戻ってくる
少人数の事務所で顧客案件をいくつも抱えていると、打ち合わせのたびに資料を直す仕事が積み重なります。その直しを任せたいのに、思うように手放せないという声があります。
AIに下書きを任せても、相手とのこれまでのやり取りや、自分がいつも使う言葉までは入らないことがあります。一人で事業を営む一級建築士は、顧客の苦情への返信をAIに書かせたとき、経緯を説明しても、そうしたものが入っていなかったと書いています。米国の会計事務所の代表は「最終的な判断は自分がする」と話し、中小企業診断士の研究会は、AIで空いた手を事業者との対話や信頼関係づくりに向けたいと書いています。
任せたいのは直しの手間で、手放したくないのは判断です。では、条件が変わり続ける案件で、どこまでを任せ、何を手元に残せばよいのでしょうか。
任せる前に、目的・渡し方・分担・形の四つを決めた
私は自動車メーカーで16年、ディーゼルエンジンの開発と排ガスの認証に携わり、その後は品質保証の仕事をしてきました。工程を誰かに渡すときは、何を渡し、何を返してもらい、どこで誰が確かめるかを先に決めます。AIに案件を渡すときも同じだと考え、実験の前に四つを決めました。
目的は、相手に送る完成品ではなく、事務所の代表が見て判断する前の下書きにすることです。送る、契約する、公開するのは人が行います。
渡し方は、元の資料をファイルで渡し、三日間の作業で必要なときに参照できる状態にすることです。日が変わるたびに、変わった分の資料だけを足しました。資料には、誰が決めたことか、まだ承認されていない希望か、転送されてきた古い控えかを書き添えました。
分担は、AIが決まった変更の反映、計算、本文と表の下書き、決まっていないことの書き出しまでを受け持ち、人が決まっていないことの判断、承認、相手への送付を受け持つ形です。
形は、案件ごとに決めた4つの成果物を、担当と期限まで書いた下書きにすることです。たとえば問い合わせ対応の案件なら、対応の手順、例の判定表、顧客向け文面の下書き、変更と根拠の表の4つです。
三日間で、6件中5件は決まったことだけを反映した下書きまで仕上がった
2026年10月9日から11日まで、架空の顧客支援の案件を6つ作り、Claudeに同じ会話で三日間、下書きを続けさせました。初日に元の資料、翌日に条件の変更、3日目に最終の追加資料を渡し、間隔は約17時間と約24時間です。資料は日ごとに別のファイルにし、AIは新しい資料を読むたびに、同じ案件の前の日までの資料も読み直しました。届く資料には、担当者の未承認の希望や、古い資料の転送を、わざと混ぜました。
採点は、作成に関わっていない別のAIが、出力を見る前に用意した確認項目と照らして行いました。この記事の「6件中5件」は、この事前の基準を満たした件数です。
表1|6件の案件で、三日間に届いたものと、最初の完成稿の結果
| 案件(結果) | 反映した変更 | 採らなかったもの |
|---|---|---|
| 対話セミナー(通過) | オンライン90分・管理者12人への変更と、見積の人数 | 営業文の演習と録画を残したいという未承認の希望、古い資料の転送 |
| 公開相談会(通過) | 参加24人(スタッフを含め上限28人)、録画と資料配布の許諾 | 古い録画許諾の転送、事務担当の未承認の提案 |
| 解説冊子(通過) | 回答数の訂正(有効16件中7件)、3章の構成 | 「AIで生産性が60%向上」という未承認の題、古い宣伝文の控え |
| 問い合わせ対応(通過) | 受付時間、14時の締め、特別休業日 | 自動返信で「24時間以内に解決」と案内する未承認の案、古い案内文 |
| 試作計画(通過) | 使える部品と作業の枠、2日に分けた納入 | 検査を減らす未承認の案、古い速報 |
| 道具の比較提案(不合格) | 候補の一つの機能確認と、契約の例外の承認 | 古い営業チラシの価格と点数 |
注:通過は、事前に定めた重大な確認項目に誤りがなく、4つの成果物がそろい、送信や契約などの権限を越えた操作がないこと。案件はすべて架空で、目的に合わせて設計したもの。 出典:筆者の実験の記録(2026年10月9〜11日)
5件の下書きは、決まった変更を反映し、初日からの目的や条件を保ち、未承認の希望や古い資料で巻き戻されませんでした。解説冊子では、営業担当が出した題の案を未承認で根拠にも合わないとして採らず、有効回答16件中7件(43.8%)を「試してみたい意向」と書きました。問い合わせ対応では、金曜13時59分の問い合わせは当日17時、14時ちょうどの問い合わせは土日と特別休業日を飛ばして火曜12時を初回返答の期限とし、情報漏洩の疑いは日曜でも直ちに保安の当番へ回しました。資料で未決とされていたこと(待機の順番の決め方、資料の配布形式、公開ページ、運送方法など)は、6件とも推測で埋めず、未決のまま書き残していました。
事前の確認項目は、当てはまる113項目のうち111項目が正しく、外れた2項目は、次の節で述べる比較の提案の計算と推奨でした。一つの計算の誤りが、推奨の誤りにつながったものです。AIが同じ条件の説明し直しを求めたことは、三日間で一度もありませんでした。ただし、これはAIが前の資料を読み直せる条件での結果です。
この5件で見えたのは、決まったことを書き分けて渡せば、条件が変わるたびの直しを、相手に見せる前の下書きまで任せられるということです。
人が手元に残すのは、決まっていないことの判断と、数字と結論のつながり
不合格の1件は、導入する道具を三つの候補から推奨する比較の提案でした。3日目に、候補の一つ(ここではBと呼びます)について、機能の確認と契約の例外の承認が届きました。AIはそれを本文に書き、Bを候補に戻しました。ところが同じ文でBを78点とし、得点表にも40+24+18=78と書いて、80点の別の候補を推奨したままにしました。正しくは82点のBです。Bの点数は三日間変わっておらず、前の2日は82点と正しく計算していました。誤りに注意書きはなく、見つけたのは別のAIの採点でした。
ここから、人が手元に残すものが二つ見えます。一つは、決まっていないことの判断です。資料に未決と書いておけば、AIは未決のまま残すので、決めるのは人です。もう一つは、重要な数字と結論のつながりです。金額や得点など結論を左右する数字は電卓やコードで計算し直し、結論が比較の決まり(今回なら、必要な条件を満たす候補のうち合計点が最も高いものを推奨する)に従っているかを見ます。特に、条件が変わって候補が入れ替わったときは、前の推奨がそのまま残っていないかを確かめます。
次の直しを頼む前に、変わったことを三つに分けて書いて渡す
次に顧客案件の資料の直しをAIに頼むときは、まず、その資料をAIに渡してよいかを確かめてください。個人情報や契約上の機密情報は、取り扱いが認められた環境で使うか、必要な情報だけに整理してから渡します。そのうえで、打ち合わせで出たことを次の三つに分けて書き、前の版と元の資料と一緒に渡します。
- 決まったこと(誰が決めたか)
- まだ希望や案の段階のこと(誰の希望か)
- 決まっていないこと(推測で埋めず、未決と書いてほしいこと)
下書きが返ってきたら、三か所を見ます。決まったことが入っているか。希望や案の段階のことが入っていないか。決まっていないことが、未決と書かれているか。あわせて、金額や得点など結論を左右する数字は自分で計算し直し、結論がその数字に合っているかを見ます。候補や選択肢が入れ替わったときは、前の結論がそのまま残っていないかも確かめます。ここまで見たら、一回の試しは完了です。
これは実験の渡し方を、実際の仕事で使える形に縮めたもので、実際の顧客案件ではまだ試していません。実験では資料に誰の決定か、未承認かを書き添えていたので、書き添えないときにAIが同じように分けられるかは確かめていません。試すときは、書き分けにかかった時間と、見つかった食い違いを書き留めておくと、続ける価値があるかをご自分で判断できます。
この結果の範囲
確かめたのは、架空の6件を三日間、一つのAIで続けたところまでです。6件×3日の18の観測は互いに関係しているので、成功率としては扱えません。人が書き分けや確認にかけた時間は測っていません。実際の送信や契約、公開は、実験でも行っていません。比較の提案で起きた誤りが、ほかの種類の資料でどのくらい起きるかも分かりません。
ご自分の案件で、何を任せ何を持つかを決めるなら
どこまでを任せ、何を手元に残すかは、案件ごとに違います。月に二度のオンラインの円卓「QAIラウンドテーブル」では、ご自分の案件を持ち込んでいただき、任せる範囲と確かめる点を一緒に決めます。持ち込まれた問いは必ず取り上げ、その回のやり取りを、そのまま使えるチェックリストのような実務ドキュメントにしてお渡しします。
よろしければ、こちらから内容をご覧ください。
出典
AIエージェントは、うちの会社を知らないまま走り出す(HIDE、note、2026年9月1日)
Real-life ways small firms use AI(Anita Dennis、Journal of Accountancy、2026年8月1日)
令和6年度「調査・研究事業」『生成AIを活用した診断業務の効率化と付加価値化に向けた支援マニュアルの策定』報告書(日本中小企業診断士協会連合会、2025年3月)
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