AIは指示どおりに動画を直した。では、その動画は本当に使えるのか?

ai 業務dx Oct 16, 2026
窓辺の机でフィルムを押さえる手と、隣で砂が落ちる小さな砂時計

皆さん、ちょっと考えてみてください。

講座で使っている説明動画があります。セット数が15から18に変わりました。

直したいのは、たった一つの数字です。

簡単そうですよね。

でも、その数字を使って計算している式はどうでしょう。計算結果は? 合計金額は? 動画の後半で、もう一度同じ数字が登場していたら?

全部直さなければなりません。

では、これをAIに任せたらどうなるでしょうか。

今回、実際に試してみました。

結果は、数量を変えると式も合計も連動して直りました。表示する時刻を変えると、その後の表示も規則どおりに動きました。頼んでいない場面も保たれていました。

ところが、ここに一つ、非常に興味深いことが起きたんです。

AIは指示どおりに動画を直したのに、数字が画面に表示される時間が半分になりました。

4秒から2秒です。

AIが間違えたのでしょうか。

いいえ。指示には合っています。

では、何が問題なのでしょうか。

今日は、架空の説明動画2本を使って行った実験から、AIにどこまで仕事を任せられるのか、そして、人間が何を判断しなければならないのかを考えてみたいと思います。

1.数字一つの変更は、数字一つでは終わらない

例えば、商品の説明動画を考えてみましょう。

「1セット80円。15セットで1,200円」

これを18セットに変えたい。

当然、計算結果は1,440円になります。

ここまでは誰でもわかりますよね。

でも、動画というのは一枚の紙ではありません。

数字が登場する時刻があります。式が表示される時刻があります。計算結果が出て、その後に合計が出て、最後に内訳がもう一度登場する。

つまり、一つの数字が、動画の中の複数の場所とつながっているわけです。

従来の動画生成AIで、こうした修正に苦労した人もいます。

ある会社の方は、住所の文字を差し替えたかっただけなのに、動画を丸ごと再生成することになり、背景や動きまで変わってしまったと報告しています。

また、コードを使ってAIに動画編集をさせた薬剤師の方は、ある場面の表記を訂正したのに、別の場面の字幕には以前の表記が残っていたと報告しています。AIが照合を追加したと報告していても、実際には残っていたそうです。

最後には自分でも見直す必要がありました。

ここで、一つ質問があります。

私たちがAIに任せたいのは、何でしょうか。

数字を一つ書き換えることでしょうか。

違いますよね。

その数字に関係する場所を、漏れなく正しく直すことではないでしょうか。

では、反対に、AIに勝手に変えてほしくないものは何でしょうか。

背景、場面の順番、表示時間、変更とは関係のない内容。

そういったものですよね。

つまり、必要なのは単に「変更する能力」ではありません。

変えるべきものと、変えてはいけないものを区別する能力なのです。

では、その区別をAIにどう伝えればよいのでしょうか。

2.AIに仕事を任せる前に、何を決めるべきか

私は以前、自動車メーカーで16年間、ディーゼルエンジンの開発や排ガス認証に携わり、その後は品質保証の仕事をしてきました。

そこで身につけた考え方があります。

一か所を変更するとき、そこだけを見てはいけないということです。

例えば、ある部品の仕様を変えるとします。

変更した部品だけが正しくできていれば、それで終わりでしょうか。

そうではありませんよね。

その部品につながっているところはどうなるのか。変更の影響を受けるところはどこか。反対に、変わってはいけないものは何か。

そこを確認する必要があります。

今回も同じように考えました。

AIに動画を渡して「ここを直して」と頼むのではなく、まず動画の構造を文章にしたんです。

大きく分けると、四つです。

一つ目は、場面です。

動画はいくつの場面に分かれているのか。どの場面で何を説明するのか。それぞれ何秒から何秒までなのか。

二つ目は、表示する時刻です。

準備費はいつ出るのか。単価と数量はいつ出るのか。式はいつ出て、結果はいつ出るのか。

三つ目は、連動の規則です。

例えば「印刷費の結果は、式が出てから4秒後に表示する」。

こういう関係を決めておきます。

四つ目は、変えてはいけないものです。

場面の切れ目、場面の順番、動画全体の長さ。

これらは、こちらが変更を許可しない限り保つことにします。

今回の実験では、こうした要求を文章でAIに渡しました。

AIは、その要求から動画を組み立てるコードと、要素どうしの連動関係の一覧を作りました。次に変更するときは、そのコードと一覧を元データとして使います。

つまり、今回は動画を毎回ゼロから生成するのではありません。

動画を作る仕組みそのものをAIに作らせ、その仕組みを修正する方法を試したわけです。

そして役割も分けました。

AIには、変更作業、連動する表示の更新、動画の書き出し、全フレームと要求の照合を任せます。

人間は、何を変更するかを決め、表示が読めるかを確認し、両立しない条件が出てきたときに何を優先するかを判断します。

さらに、変更のたびに新しい版として保存し、以前の版は残します。何を変更したか、何ができなかったかも報告させることにしました。

ここまで決めて、実験を始めました。

3.本当に、関係するところだけ直せるのか

2026年10月10日、架空の費用計算を説明する、無音の短い動画を2本作りました。

一つは48秒。二つの費用計算を、それぞれ独立した例として説明する動画です。

もう一つは60秒。固定の準備費と、セット数に応じて変わる印刷費を足して、合計を説明する動画です。

それぞれ初版を作り、その後、数量と表示時刻の変更を二回行いました。

検査では、作成を担当していない別のAIが、二通りの方法で要求と書き出した動画の全フレームを照合しています。

では、どうなったでしょうか。

まず、合計を説明する動画で、印刷するセット数を15から18に変更しました。

すると、

  • セット数の表示は、15から18へ。
  • 印刷費の式と結果は、80円×15=1,200円から、80円×18=1,440円へ。
  • 合計金額は、2,400円から2,640円へ。
  • 後半にもう一度出てくる内訳も、新しい数字へ。

関係するところが連動して変わりました。

一方、固定の準備費1,200円は変わりません。

場面の切れ目や、表示する時刻もそのままでした。

つまり、変えるべきところは変わり、変えなくてよいところは保たれていたのです。

では、今度は数字ではなく、時刻を変えたらどうなるでしょう。

印刷費の式を、26秒から28秒へ、2秒遅らせるように頼みました。

ここで大切なのは、式だけではなく、その後の表示にも規則があるということです。

印刷費の結果は式の4秒後。合計の式はその結果の6秒後。合計金額は合計の式の4秒後。内訳の再掲は合計金額の8秒後です。

この規則に従うと、どうなるでしょうか。

表1|表示開始時刻と表示時間の変化

表示するもの 変更前 変更後
印刷費の式 26秒 28秒
印刷費の結果 30秒 32秒
合計の式 36秒 38秒
合計金額 40秒 42秒
内訳の再掲 48秒 50秒
場面の切れ目 34・46・54秒 変更なし
印刷費の結果の表示時間 4秒 2秒

出典:筆者の実験記録(2026年10月10日)。すべて架空の教材。各要素は所属する場面の切れ目で消え、次の場面へは持ち越しません。時刻の許容差は1フレームです。

指定した式の開始時刻を2秒遅らせると、連動する四つの表示も2秒ずつ遅れました。

場面の切れ目は動きませんでした。

独立した二つの例を並べた48秒の動画でも、一方の数量を変えたとき、もう一方の例や導入、注意、まとめは保たれていました。

さらに、制作の経緯を知らない新しいAIに、同じ版と同じ修正指示を一回渡して試したところ、最初の結果とファイルの内容まで一致しました。これはファイルの照合用の値で確認しています。

ここまでの結果は良好です。

ただし、ここからが今回の実験で一番興味深いところです。

4.AIは正しく直した。でも、何かがおかしい

先ほどの表を、もう一度見ていただきたいんです。

印刷費の結果が表示される時刻です。

変更前は30秒でした。

場面が終わるのは34秒ですから、表示時間は4秒あります。

では、変更後はどうでしょう。

32秒に表示されて、34秒で消えます。

たった2秒です。

表示時間が半分になったんです。

ここで質問です。

AIは指示に違反したのでしょうか。

いいえ。

式を2秒遅らせることも、結果を式の4秒後に出すことも、場面の切れ目を動かさないことも、すべて指示どおりです。

では、どうしてこんなことが起きたのでしょうか。

答えは簡単です。

要求に「いつ表示するか」は書いてあったのに、「何秒以上表示するか」は書いていなかったからです。

AIは要求された条件を守りました。

しかし、その条件を守った結果、人が読むための時間が短くなることまでは禁止されていなかったのです。

これ、非常に重要な違いだと思いませんか。

動画が仕様どおりにできていることと、動画が教材として使いやすいことは、同じではないんです。

もちろん、2秒だから絶対に読めないということではありません。

今回、人が実際に何秒で読み切れるかは測っていません。

だから、この動画が読めないと断言することもできません。

ただ、一つ確かなことがあります。

AIが仕様どおりに動画を直せたことだけでは、受講者にとって適切な動画になったとは判断できないということです。

そこで、もう一つ実験してみました。

5.矛盾する要求を渡したら、AIはどうするのか

今度は、条件を一つ追加しました。

「印刷費の結果を、4秒以上表示すること」

これまでの条件も、すべて守るようにします。

では、計算してみましょう。

式は28秒に出ます。

結果はその4秒後ですから、32秒です。

場面は34秒で終わります。

32秒から34秒まで、何秒ありますか。

2秒ですね。

でも、新しい要求では4秒以上表示しなければなりません。

両方を同時に満たすことはできません。

では、AIはどうしたでしょうか。

どれか一つの条件を勝手に変更して、もっともらしい動画を作ってきたのでしょうか。

そうではありませんでした。

AIは、要求された条件をすべて満たすMP4は作成できないと報告し、以前の版を残したまま、条件の検証結果を返してきました。

そして、四つの変更案を示しました。

  1. 式と結果の間隔を短くする。
  2. 場面の切れ目を後ろへ動かす。
  3. 式を表示する時刻を元に戻す。
  4. 必要な表示時間の条件を緩める。

いずれも、勝手には実行しませんでした。

さて、皆さんだったらどれを選びますか。

ここには、機械的に決められない判断があります。

式と結果の間隔を短くしても、説明は理解できるでしょうか。

場面を延ばすと、その後の構成に影響は出ないでしょうか。

そもそも、表示時刻を2秒遅らせたかった理由は何だったのでしょうか。

それによって、優先すべき条件は変わりますよね。

今回のAIは、決められた条件をすべて満たせないことを検出して、人間に判断を戻しました。

なお、この条件の矛盾を検出したのは作成役のAI自身で、この検出については別のAIによる独立評価までは行っていません。

それでも、今回の実験では、条件を勝手に捨てず、判断が必要なところで止まるという動きを確認できました。

6.AIに任せるのは作業か、それとも判断か

ここまでを振り返ってみましょう。

数量を15から18へ変える。

式が変わる。結果が変わる。合計が変わる。最後の再掲も変わる。

これは、あらかじめ連動する規則を決めておけば、AIに任せられることが確認できました。

表示の開始時刻を2秒遅らせる。

それに続く表示も遅らせる。

これも任せられました。

指定していないところが変わっていないか、全フレームを照合する。

これも今回の環境ではAIに担当させることができ、別のAIによる二通りの評価で確認しました。

しかし、結果を何秒見せれば講義の目的に合うのか。

場面の長さを守ることと、読める時間を守ることのどちらを優先するのか。

これらは、実験でAIが自動的に答えを出せた問題ではありません。

ここに、今回の一番大きな学びがあります。

AIに作業を任せることと、AIに判断を任せることは違います。

私は、AIを使うときに大切なのは、単に人間の仕事を全部なくそうとすることではないと考えています。

人が判断するために必要な情報を、AIに整えてもらう。

決めたことを、AIに正確に実行してもらう。

そして、実行した結果を確かめ、次の判断をする。

この分担ができれば、AIを使った仕事の進め方は、ずいぶん変わってくるのではないでしょうか。

7.では、自分の説明動画では何から始めればよいのか

ここからは、皆さんご自身の仕事に置き換えてみましょう。

今使っている講座の動画、商品の説明動画、顧客向けの案内動画。

その中で、毎月、あるいは毎年変わりそうな数字はありませんか。

料金かもしれません。

数量かもしれません。

割引率や申込条件かもしれません。

まず一つだけ選んでみてください。

そして、次の四つを書き出します。

① その数字は、どの場面に出てくるか。

冒頭でしょうか。計算式でしょうか。まとめでしょうか。

② その数字が変わったら、どこが連動して変わるか。

式、結果、合計、再掲。関係する場所を確認します。

③ それぞれ、いつ出て、いつ消えるか。

表示する時刻だけでなく、表示されている長さも考えます。

④ 何を変えてはいけないか。

場面の順番、切れ目、全体の長さなど、保持する条件を書き出します。

これが最初の要求です。

そして、AIに修正させた後は、三つを確かめます。

一つ目。頼んだ数字と、それに連動する数字は正しく直ったか。

二つ目。頼んでいないところは変わっていないか。

三つ目。変わった数字が、何秒間表示されているか。

全体を一度再生してみてください。

この三つを確かめれば、まず一回の小さな実験ができます。

実際に受講者や顧客へ公開するときは、それに加えて計算の正しさ、文言、他の場面との整合性も確認します。

もう一つ、始める前に大切なことがあります。

顧客の個人情報や契約上の機密が入っている動画を、そのままAIに渡してよいとは限りません。利用が認められた環境なのかを先に確認し、必要であれば情報を分離して使ってください。

そして、実験したときには、修正にどれだけ時間がかかったか、確認にどれだけ時間がかかったか、何か食い違いが見つかったかを記録します。

なぜでしょうか。

AIに任せて本当に得だったのか、自分で判断できるようにするためです。

8.今回、何がわかって、何がまだわかっていないのか

ここは区別しておきたいと思います。

今回試したのは、架空の費用計算を扱う、短い無音の説明動画2本です。

それぞれ初版から二回改訂して、三つの版を作りました。同じ動画を続けて直しているため、六つの独立した実験ではありません。

確認できたのは、数量や時刻を変更したとき、指定した連動規則に従って他の表示まで変更でき、変更対象外の場面が保たれていたことです。

一方、読み上げ、字幕との同期、複雑な画面の動き、長文、実写動画には広げていません。

実際の人が表示を読み切れるかどうかも測っていません。

また、動画の確認時間がどの程度短縮されるか、現在の編集工程と比べてどちらが効率的かも、まだ確かめていません。

今回使ったのは、AIがファイルを読み書きし、コードを実行して動画を書き出せる環境です。

会話画面に動画を貼り付けて「直して」と頼むだけで、同じことができると確認したわけでもありません。

発表された動画生成製品そのものを評価した実験でもありません。

ここで確認したのは、あくまでコードから組み立てた動画を、要求と連動規則に従って改訂する方法です。

結果が良かったからといって、どんな動画でも同じように直せると言うつもりはありません。

でも、少なくとも今回の条件では、AIに任せられる作業の範囲を具体的に確かめることができました。

9.最後に、一つ質問させてください

皆さんは今、AIに何を任せていますか。

文章を書くことですか。

資料を作ることですか。

動画を作ることでしょうか。

では、その仕事の中で、AIが実行すべきことと、ご自身が判断すべきことを分けているでしょうか。

今回、私が一番興味深いと感じたのは、AIが計算を間違えなかったことではありません。

AIが正しく仕事をした結果、人間が決めるべき条件が明らかになったことです。

数字は合っている。

表示する時刻も合っている。

変えてはいけない場面も守られている。

それでも、受講者に何秒見せるべきかという判断は残るんです。

だからこそ、人が何を決めるのかを明確にする必要があります。

AIに任せる範囲を広げるためには、人間が持つ判断の基準を明確にする。

今回の実験から、私はそう考えています。

皆さんだったら、ご自身の教材のどの作業をAIに任せ、どの判断を手元に残すでしょうか。

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