「ミュトス級AIに備える」とは、怖がることではなく、学んで使うこと

ai ガバナンス 生成ai Jun 30, 2026
AIを怖がりすぎず、使いどころと確認の線引きを整理する判断メモのイメージ

日本経済新聞で、「経営者の81%がミュトス級AIに備え、サイバー防衛に投資する」という趣旨のニュースがありました。社長100人アンケートでは、ミュトス級AIの悪用に備えて投資を増やすという回答が8割を超え、サイバー防衛や供給網監視への関心が高まっているようです。

このニュースを見て、最初に感じたのは、「備える」とは何を意味するのだろう、ということでした。

ミュトス級AIは、従来の生成AIより踏み込んだ話です

ミュトス級AIは、単に文章を書いたり、質問に答えたりするAIではありません。Anthropic の説明では、Claude Mythos Preview はサイバーセキュリティ領域で非常に高い能力を示し、主要なOSやブラウザのゼロデイ脆弱性の発見や、複数の脆弱性を組み合わせた攻撃の構築に関わる能力が示されています。

英国AISIも、Mythos Preview について、脆弱なネットワークへの多段階攻撃シミュレーションや脆弱性の発見・悪用で、従来モデルから一段進んだ性能を確認したとしています。

ここまでは、大企業や専門機関の話に見えるかもしれません。

ただ、中小企業や一般の会社にとっても、これは無関係ではありません。大企業のシステムだけが狙われるわけではなく、取引先、クラウドサービス、外部委託先、古い業務ソフト、放置されたアカウントなど、つながっている場所から影響は広がるからです。

中小企業が先に備えるべきなのは、防衛装置より理解の不足です

とはいえ、中小企業に対して「ミュトス級AIに備えましょう」と言っても、正直、何をしたらよいのか分かりにくいと思います。

専任のIT担当者がいない会社もあります。名ばかりのIT部署で、実際には総務や経理が兼任している会社もあります。大企業のようにCISOを置き、SOCを運用し、24時間監視をすることは、多くの会社にとって現実的ではありません。

だからこそ、少し別のところから考える必要があると思っています。

中小企業にとって一番危ないのは、AIそのものを勘違いしていることです。

AIを過大評価しても、過小評価しても危ういです

AIを過大評価して、「何でも自動化できる」「専門家はいらなくなる」「AIが言うなら正しい」と思ってしまう。反対に、過小評価して、「うちには関係ない」「遊び道具のようなものだ」「社員には使わせない方がいい」と遠ざけてしまう。どちらも、少し危うい見方です。

AIは、事実を知っている存在ではありません。統計的にもっともらしい出力を返すモデルです。もちろん、使い方によってはとても役に立ちます。文章の整理、調査の補助、業務手順のたたき台、コードの確認、問い合わせ対応の下書きなど、日々の仕事を助ける場面は多くあります。

正しいかどうかを判断するのは、人間です

ただ、正しいかどうかを判断するのは人間です。何を入れてよいかを決めるのも人間です。どの業務に使い、どの業務には使わないかを決めるのも人間です。

ここを飛ばしてしまうと、いろいろな問題が起きます。AIの出力を事実だと思い込む。機密情報や個人情報を不用意に入力する。AIで何でも効率化できると思い、業務設計を雑にする。逆に怖がりすぎて使わず、競争力を落とす。ルールだけ作って、現場では形だけになる。

これは、AIの性能だけの問題ではありません。使う側の理解の問題です。

まず使ってみる。ただし、学ばずに使わない

私は、「まず使ってみる」ことは非常に大事だと考えています。触らないまま、AIを理解することは難しいからです。実際に使ってみると、便利なところも、危ういところも見えてきます。

ただし、使ってみることと、学ばずに使うことは違います。

AIはツールです。これまでのツールと同じように、本来は使い方を学ばなければなりません。表計算ソフトも、会計ソフトも、クラウドストレージも、学ばずに使えばミスが起きます。AIだけが例外ということはありません。

むしろAIは、これまでのツールよりも自然な言葉で使えてしまいます。そこが便利なところであり、同時に危ないところでもあります。簡単に使えるようになったからこそ、「学ばなくても使える」と誤解しやすいのです。

最初に整理すべきことは、AIの使いどころと線引きです

中小企業が最初に取り組むべきことは、立派なAI戦略を作ることではないと思います。まずは経営者が、AIをどういう道具として扱うのかを理解することです。

  • AIでできること
  • AIでまだ任せないこと
  • 入れてよい情報と、入れてはいけない情報
  • 人間が確認すべきところ
  • 会社として使ってよい場面と、まだ使わない方がよい場面

この整理がないままAI活用だけを進めると、現場は便利さに流れます。一方で、禁止だけを決めると、見えないところで使われます。どちらも、会社にとって扱いにくい状態です。

「ミュトス級AIに備える」の第一歩は、学んで使うことです

ミュトス級AIに備えるという話は、最先端のサイバー防衛だけを意味しているわけではないと思います。

もちろん、大企業や専門機関には、高度な防御体制が必要です。ただ、多くの中小企業にとっての第一歩は、もっと手前にあります。

AIを怖がりすぎないこと。

AIを信じすぎないこと。

まず使ってみること。

そして、ちゃんと学んで使うこと。

AIは、誰でも使えるようになりました。だからこそ、誰でも学ばずに使えてしまいます。ここに、いま一番大きな危うさがあると感じています。

参考

AIと人の協働について、構造から考えた記録を、ほかにも書いています。

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