「まっとうなAI活用」とは何か~味噌づくりから考えた、AI時代の信頼の育て方~
Jul 02, 2026
「まっとうな味噌」という言葉が、しばらく頭に残りました。
先日読んだ雑誌の記事で、昔ながらの製法で味噌づくりを続ける現場が紹介されていました。
味噌は、材料を混ぜればすぐに完成するものではありません。
麹菌の働きを見ながら、時間をかけて育てていくものです。
発酵は止まりません。
出荷されたあとも、少しずつ色や風味は変わっていく。
その変化を「ばらつき」と見るのか。
それとも「本来の姿」と見るのか。
ここに、AI活用にも通じるものがあると感じました。
今は、AIを使うこと自体はかなり簡単になりました。
文章を書く。
要約する。
資料のたたき台を作る。
画像を作る。
調べものを手伝ってもらう。
使おうと思えば、今日からでも使えます。
実際、AIの活用は急速に広がっています。Stanford HAIの「2025 AI Index Report」では、2024年にAIを使っていると回答した組織は78%で、前年の55%から大きく増えたとされています。McKinseyの2025年調査でも、AIを少なくとも1つの業務機能で使っている組織の割合は88%に達したと報告されています。
つまり、AIはもう「使うかどうか」の段階を越えつつあります。
これから問われるのは、どう使うかです。
もっと言えば、まっとうに使えているかが問われる段階に入っていると思います。
では、AIにおける「まっとうさ」とは何でしょうか。
私は、AIを過信することではないと思っています。
逆に、怖がって使わないことでもありません。
AIを、人が責任を持てる形に整えること。
現場で使える手順に落とすこと。
間違いが起きたときに止められる仕組みを持つこと。
そして、一回使って終わりではなく、仕事の中で少しずつ育てていくこと。
これが、まっとうなAI活用だと考えています。
たとえば、次のような状態は、まだ「まっとう」とは言いにくいです。
ChatGPTを社員に配っただけ。
便利なプロンプトを共有しただけ。
「使ってみて」と丸投げしただけ。
出力の確認基準がない。
機密情報をどこまで入れてよいか決まっていない。
誰が最終判断するのか曖昧。
うまく使える人だけが使っていて、他の人には広がらない。
これでは、AIは仕事の中に根づきません。
一時的に便利にはなります。
でも、品質は安定しません。
任せることもできません。
責任の所在も曖昧になります。
AIを導入したのに成果が出ない理由は、多くの場合、ツールそのものではありません。
使い方が悪いというより、運用が設計されていないのです。
AI活用には、少なくとも5つの条件が必要だと考えています。
1つ目は、目的があること。
何の業務を、何のために改善するのかが決まっている。
2つ目は、手順があること。
誰がやっても近い品質になるように、使い方が残っている。
3つ目は、確認があること。
AIの出力を、人がどこで、何を基準に見るかが決まっている。
4つ目は、責任範囲があること。
AIに任せる部分と、人が判断する部分が分かれている。
5つ目は、改善ループがあること。
使いっぱなしではなく、失敗、修正、更新が回っている。
この5つが揃って、AIは「便利な道具」から「信頼できる業務の一部」に近づいていきます。
最近は、AIエージェントのように、複数の手順を自律的に進める仕組みも広がっています。McKinseyの2025年調査でも、AIエージェントを全社内のどこかでスケールしている組織が23%、実験を始めている組織が39%あると報告されています。
ここで大事なのは、AIが賢くなるほど、人間が何もしなくてよくなるわけではないということです。
むしろ、任せる範囲を決めること。
確認するポイントを決めること。
止める条件を決めること。
責任を持つ人を決めること。
こうした設計が、より重要になります。
日本でも、AI活用は「自由に使えばよい」だけの話ではなくなっています。内閣府は、AIのイノベーションを促進しつつリスクに対応するため、2025年6月4日にAI法が公布・一部施行され、同年9月1日に全面施行されたと説明しています。
また、総務省・経済産業省の「AI事業者ガイドライン 第1.2版」では、AIの開発・提供・利用にあたって必要な取組の基本的な考え方が示され、チェックリストやワークシートも公開されています。
ここから見えてくるのは、AI活用の重心が変わり始めているということです。
以前は、
「AIで何ができるか」
が主な問いでした。
今は、
「AIをどう業務に組み込むか」
「どこまで任せるか」
「誰が確認するか」
「どう改善し続けるか」
が問われています。
つまり、AI活用は“導入”ではなく、“運用”の問題になっています。
味噌づくりで印象的だったのは、「つくる」というより「育てる」という感覚です。
これはAIにも近いと思います。
AIは、一度入れたら完成するものではありません。
現場で使ってみる。
うまくいかないところを見る。
手順を直す。
チェック項目を増やす。
任せる範囲を少しずつ広げる。
そうやって、仕事の中で育てていくものです。
まっとうなAI活用とは、AIを万能扱いすることではありません。
人の責任を消すことでもありません。
むしろ逆です。
人が責任を持てるように、AIの使い方を整えること。
品質を落とさずに、任せられる形をつくること。
属人化していた仕事を、チームで回せる状態にすること。
そして、信頼を損なわない範囲で、少しずつ仕事を変えていくこと。
AIは、雑に使えば不安の種になります。
でも、丁寧に運用すれば、判断と実務を支える力になります。
これからのAI活用で大切なのは、派手な使い方を追うことではありません。
自分たちの仕事に合った形で、
人が確認できる形で、
任せても品質がぶれない形で、
少しずつ育てていくこと。
それが、私の考える「まっとうなAI活用」です。
AIを信じ切るのではなく、
AIを使わないままでもなく、
人が責任を持てる形に整えていく。
その積み重ねが、これからの仕事の信頼をつくっていくのだと思います。
まっとうなAI活用は、一度の導入で完成するものではなく、仕事の中で少しずつ育てていくものでした。味噌と同じで、育てるには、見守る時間と、手を入れ続ける場所が要ります。
その「育てる場所」として、月に二度のオンライン円卓を用意しています。最前線で何が起きているかを、わかる言葉に整理してお伝えし、持ち寄った疑問にその場で答える。一人の問いが、全員の手がかりになる。そういう少人数制の場です。来られない回は録画で追えます。
一人で追い続けるのが大変だと感じている経営者・専門家の方は、こちらからどうぞ。
▶ QAIラウンドテーブル(月2回のオンライン円卓)
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次に読むと良い記事
着想元・参考資料
本記事は、雑誌『天然生活』2026年4月号掲載の「まっとうな国産食品づくりの現場」という記事で出会った「まっとうな味噌」という言葉から着想を得て、AI活用について考察したものです。食の3重丸の公式サイトでも、同記事に関する掲載情報が紹介されています。
https://tennenseikatsu.jp/_ct/17833863
関連書籍として、料理家・発酵マイスターの榎本美沙さんの『別冊天然生活 榎本美沙さんの発酵のある暮らし』があります。扶桑社公式ページでは、塩麹、甘酒、味噌、酒粕、ヨーグルトなど、発酵食品を暮らしに取り入れる内容として紹介されています。
AI活用の現状については、Stanford HAI「2025 AI Index Report」、McKinsey「The State of AI: Global Survey 2025」、内閣府「人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する法律」、総務省・経済産業省「AI事業者ガイドライン 第1.2版」を参照しました。
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