QAILaboratory|「これなら自分が書いた方が早い」と閉じたファイル
こんにちは、QAILaboratoryの鳴海です。
ある税理士の方が、顧客向けの説明文をAIに頼んでみたそうです。インボイスの何がどう変わるのか、毎年同じ質問をお客さんから受ける、あの話です。返ってきたのは、整ってはいるけれど、どこの事務所のサイトにも載っていそうな文章でした。カーソルを置いたまま、しばらく直そうとしたそうです。一段落を書き換え、また戻し、結局「これなら自分が書いた方が早い」とつぶやいて、ファイルを閉じました。
その週、ニュースでは大手のAIがオフィスの資料づくりまで一通りこなすようになった、と流れていました。これだけのものが、なぜ自分の手元では当たり障りのない答えしか返さないのか。腑に落ちないまま、夜、もう一度だけ開きました。
今度は、ゼロから書かせるのをやめました。送信済みフォルダをさかのぼって、去年、ある顧問先の社長に宛てて自分が書いた説明メールを一通、見つけ出したのです。専門用語を避けて、たとえ話でかわした、少し砕けた文章。「事業の調子はいかがですか」から始まる、あのメール。それを下敷きに、同じ説明文をもう一度頼みました。
戻ってきた文章で、スクロールする指が止まったそうです。今度は、自分の声がしました。「むずかしく聞こえるかもしれませんが」と前置きしてから本題に入る、あの言い回しまで残っていた。お客さんの顔を思い浮かべながら書いたときの、間の取り方がそこにありました。賢くなったのはAIではありません。20年ぶんの「自分の説明の仕方」を、初めて手渡しただけでした。
頭の中にある説明の引き出しは、たぶん、その人の一番の財産です。でも、渡さないかぎり、AIはそれを知りようがない。だから、誰にでも書ける一般論が返ってくる。本当は持っているのに、棚から出していなかっただけなのです。
次に何かを頼むとき、ゼロから書かせる前に、昔うまく書けた自分の文章を一通だけ、隣に置いてみてください。
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閉じたあのファイルは、中身がなかったのではなく、まだ手渡していなかっただけかもしれません。
QAILaboratory 代表 鳴海
「AIで事故らない」運用設計の専門家。
トヨタ系列のエンジン開発担当を経て、パナソニックAP・
トランスコスモス・日産自動車の開発部門など、
現場の複雑さを知る企業のAI導入に携わってきた経験から、
「ツールより先にルールを決める」設計を大切にしています。
ジェームススキナー氏からの学びをクライアントに合わせてわかりやすく提供。
現在は製造業・サービス業・IT企業など、十数社を支援。
1社ずつ深く入るスタイルでAI導入・運用設計の支援を続けています。
30日で土台・90日で定着。検収条件は事前に明文化します。
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