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QAILaboratory|AIが一度も迷わなかった書類を、そのまま出した日

Jul 11, 2026
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こんにちは、QAILaboratoryの鳴海です。

彼は、社会保険労務士として、小さな事務所を一人で回している。その朝、コーヒーを淹れながら開いた記事に、少し手が止まった。アメリカのFordが、AIを広げた反動で、退職していたベテラン技術者を350人ほど呼び戻したという。効率を上げたはずが、品質のどこかがほころびたらしい。彼は「うちには関係ない話だ」とつぶやいて、カップを置き、その日の書類にとりかかった。

ここ数か月、彼は下書きの多くをAIに任せていた。就業規則の整備も、手続き書類の作成も、頼めば整った形で返ってくる。速くなった分、顧問先とゆっくり話す時間が増えた。悪くない、と思っていた。

その日の一件も、いつも通りだった。ある従業員の労働時間の扱いについて、AIは迷うことなく、原則どおりの処理で書類を仕上げた。整っていた。彼はそれを、いつものように提出した。

数日後、顧問先の社長から電話があった。「あの人ね、前の職場の事情で、少し特殊な勤務の約束があってね。前に先生に話したと思うんだけど。」彼は自分の記録をさかのぼった。確かに、半年前に聞いていた。原則どおりでは、収まらない事情だった。

AIは、その事情を知らない。知らないまま、迷わず原則を当てはめていた。そして彼自身も、AIが迷わなかったから、確かめなかった。経験を積んだ自分なら、本当なら、そこで一度手を止めていたはずの一点だった。

手放していたのは、時間ではなかった。自分がすでに知っていることと、AIの答えを、一度だけ突き合わせる。その一手間のほうを、速さがいつのまにか省かせていた。

次の週から、彼はほとんどの下書きをAIに任せ続けている。ただ、例外の事情がありうる一種類の書類だけは、出す前に、「なぜこれは原則どおりで大丈夫なのか」を、自分の言葉で一度言えるか確かめると決めた。言えないときは、もう一度、記録を開く。それだけのことだった。

Fordが呼び戻した350人が、現場で何をしているのかは分からない。ただ、たぶん派手な仕事ではない。誰かがAIの答えの前で、一度だけ手を止める。そのための席が、まだ残っているということなのだと思う。

QAILaboratory
代表 鳴海貴慶

HP https://qailaboratory.narumitakayoshi.com
LinkedIn https://www.linkedin.com/in/takayoshi-narumi-9869a527a/
ブログ https://www.narumitakayoshi.com/blog/

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